水の星、世界を手に入れる男
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『水の星、世界を手に入れる男』
第41話 襲撃

 予定通り滞在期間を消化したシーザー王は、本国への帰路についた。
 護衛艦1隻を含めた計2隻による移動である。

 航行中、些細なことで配下を怒鳴り散らしたシーザー王は、我に返ると自室に篭もった。
 椅子に腰を下ろし、膝を小刻みに揺らしながら、今後のことを考える。

 近いうちにエルバートを処罰した後、三大貴族に配慮しつつ、新領地の差配をしなければならない。
 最初から方向性が定まっているものばかりではあるが、これらは密接に繋がっている事柄であるため、細部の詰めには時間が掛かるだろう。

「陛下!」
 慌てた様子で親衛隊長が部屋に入ってきた。
 最初は一喝して追い返そうとしたシーザー王だったが、報告を聞いてすぐに立ち上がった。
 2隻の武装船に襲われ、前方を航行していた護衛艦がすでに斬り込まれているのだという。

「海賊か?」
「おそらく。ただ、海賊旗はまだ確認できておりません。夜の闇に紛れて突然 襲い掛かってきたもので」
「なぜ警戒していなかった!?」
 怒声を上げながらシーザー王は甲板に上がった。

――――

 待っていたのは苛烈な砲撃だった。
 艦はすでに複数 被弾していた。帆のひとつが根元から倒れている。
 武装船は至近まで迫っており、今まさに接舷を果たそうとしていた。

 瞬く間の出来事だった。
 通常、接舷する際には、船首をぶつけて無理やり艦同士を密着させるのだが、目の前の武装船は、軽く接触するだけで艦と艦を横並びにした。
 間の距離は無に等しい。

 海賊ごときにできる芸当ではない。シーザー王は直感した。
 武装船から乗り移ってくる者たちの統率された動きは、海賊どころか、鍛え抜かれた精鋭を思わせる。

 シーザー王を守るべく親衛隊が応戦したものの、長くは続かなかった。
 最初こそ白兵戦は互角の展開を見せたが、親衛隊長が討ち取られると形勢は一気に傾いた。

「陛下、小舟を用意してあります。急いでお逃げください」
 側近が言った。
 シーザー王は動かなかった。どうにもならないことは理解していた。
 これほどの手練れがみすみす余を逃すものか。その程度のことがなぜ分からぬ?  シーザー王は敵集団を睨み付けた。
 直後、先頭で剣を振るっている女を見て、目を疑った。

 ベアトリス・ハル。エルバートが助け出した亡きハル王国の姫君。
 彼女が最前列で斬り込み隊を指揮している。

 カーライルの国王を襲ったのはベアトリス姫だった。
 これはつまり……。

 ベアトリスは足を止めた。こちらに気付いたらしい。
 周りの兵たちが激しく斬り合っている中、彼女は気にした風もなく、真っ直ぐこちらに歩み寄ってきた。

 シーザー王はその場に立ち尽くしていた。
 早く逃げるよう側近がしきりに声を上げているが、無視した。

 間近まで来たベアトリスは言った。
「勘違いしないでください。国旗を掲げていないのは、隠密行動ゆえです。別にカーライル王国を裏切ろうとしているわけではありません。とはいえ、私の考えているカーライル王国とあなたの考えているカーライル王国が必ずしも一致するとは限りませんけれど」

「誰の差し金だ?」
「答えるまでもないことでしょう。本当は分かっていらっしゃるのでは? 確認しなければ気が済まないのでしたら申し上げます。あなたの愛する息子さんに要請されて参りました」
「エルバートか」

「殿下は前方の護衛艦に斬り込んでいます。制圧が完了したらこちらに顔を見せるでしょう」
「……制圧の必要はない」
 事態を悟ったシーザー王は降伏した。


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