水の星、世界を手に入れる男
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第一章 第二章 第三章
『水の星、世界を手に入れる男』
第22話 侵攻戦・二

 両軍とも、3つに分けた艦隊を横に並べて前進した。

 先に砲撃を始めたのはベリチュコフ軍だった。相手が射程に入った瞬間、全艦による砲撃を開始する。
 しかし、なかなか命中しなかった。
 遠距離砲撃などそう当たるものではない。射程ぎりぎりでは余計に命中率が落ちる。

 対するカーライル軍は、反撃することなく前へ進んだ。
 砲火に晒されながら黙々と前進するのは、各艦を預かる艦長たちの精神をひどく消耗させた。
 距離を縮めれば縮めるほど敵の砲撃は正確性を増していく。
 エルバートの再三に渡る厳命がなければ、艦長たちは耐えきれず、勝手に反撃していただろう。

 最初にカーティス艦隊が被弾した。
 カーライル軍の中央艦隊8隻は、前列4隻と後列4隻に分けられており、カーティス少将は前列を率いていた。
 残りの後列4隻はエルバートが直接 指揮している。

 旗艦の通信兵が叫んだ。
「カーティス艦隊四番艦に直撃! 死傷者は少数! 航行能力・戦闘能力は共に正常!」
「了解だ」
 エルバートは表情を変えず前方を見据えていた。

 別の艦にも魔術弾が命中する。損害を受けたのは、またしても前列のカーティス艦隊だった。
 参謀団の誰もが主君に対して不安の眼差しを向けた。批判を口にする者は居ないが、態度の端々に焦燥が表れている。

 彼らの視線にエルバートは苛立ちを募らせた。
 見くびられることには慣れているはずなのに、どうにも不快感が拭えない。
 この場にラナが居れば、なんだかんだ言いながらも信頼を寄せてくれるのに。そう思ってしまう。

 これまでは周囲から軽んじられても気にならなかったが、どうやらそれは、常にラナがそばに居てくれたおかげらしい。周りの不信をラナの信頼が中和していたのだ。
 ラナが居ない今、エルバートはひとりで様々なことに対処せねばならなかった。

「あの、エルバート様。そろそろ反撃をしてはいかがでしょうか」
 参謀のひとりが恐る恐る進言した。
 確かこいつはカーティス少将の縁者だったか、とエルバートは思ったが、他にこれといった感想を抱くことはなかった。

「まだだ」
 参謀の進言をエルバートは一蹴した。
 胸の内では、彼もまた、すぐにでも反撃をしたい欲求に駆られている。
 自分が命じたことであっても、一方的に砲撃されるとやはり焦る。早く撃ち返して重圧から逃れたかった。参謀団の視線も気になる。
 しかし我慢だ。

 一斉砲撃は絶大な瞬間火力を誇るが、ほとんどの場合、最初のタイミングでしか行われない。
 砲撃の間隔は、各魔術士の素養と練度が関わってくるため、二射目からは各個で砲撃した方が効率が良いのだ。

 一斉砲撃の機会が限られているのなら、その威力を最大限に発揮できるよう、できる限り敵との距離を詰めてから行うべきだろう。
 心理効果も期待できる。初撃での被害が大きくなれば敵は少なからず動揺する。
 とはいえ……。

 この辺りが限界か、とエルバートは思った。
 被弾は加速度的に増している。物理的な損害だけを考えればまだ許容範囲ではあるが、いずれかの艦長が我慢できなくなり勝手に砲撃を始めないとも限らない。
 1隻が始めれば他の艦も釣られてしまうだろう。
 そうなったら、ここまで耐えてきた意味がなくなる。

 一斉砲撃で最大の効果を望めるのはもう少し近付いてからだが、ここは妥協したほうが賢明かもしれない。
 今の時点でも、充分に引き付けたと言える距離ではある。
 これ以上は欲張り過ぎか。
 エルバートは決断した。

「砲撃開始」
 命令が出された途端、カーライル軍は競うように魔術弾を放った。

――――

 この時アナスタシヤは、通信兵を介して味方艦と連格を取っていたため、カーライル軍を見ていなかった。
 風切り音を耳にして彼女は前方に向き直った。飛来する多数の魔術弾が視界に入る。
 反応を示している時間はない。
 直後に1発の魔術弾が旗艦に直撃した。

 アナスタシヤは慌てて味方艦隊の状況を確認した。複数の艦が被弾していることはすぐに分かった。
 これまでの砲撃でカーライル艦隊にいくらかの打撃を与えているはずだが、現時点での被弾数はこちらの方が多くなったかもしれない。

「小癪な真似をっ……!」
 アナスタシヤが言うと、副官は苦い顔をした。
「敵の総司令官は、女王陛下を捕縛した男です」
「分かっているわ。どうやら、マグレだったというわけではないようね。小細工が得意みたいじゃない?」

 アナスタシヤは、中央艦隊15隻に通信を送った。
「一斉砲撃なんかに気圧されないで! 粛々と距離を詰めながら砲撃を続けるのよ!」
 続けて、左翼艦隊と右翼艦隊にも檄を飛ばす。
「作戦通り、左右両翼は、被害を抑えることだけ考えて! 敵軍の撃破は中央艦隊に任せなさい!」

――――

「黙っていろ!」
 ベリチュコフ軍 右翼艦隊の艦長マルク男爵は、苛立ちを隠そうともせずに通信兵を怒鳴り付けた。

 立腹の原因は総司令官アナスタシヤにあったが、マルク艦長は通信兵にも同等の怒りを感じた。
 総司令官の言葉をそのまま伝達することが通信兵の役目であっても関係はなかった。
 通信兵さえ居なければ不快になることもないだろうに、と半ば本気で思い、きつく睨み付ける。

 女王陛下の妹とはいえ、自分の息子と年が変わらないような女に命令されねばならないとは、なんたる屈辱。
 恐縮している通信兵から視線を切り、マルクは艦長席に勢い良く座った。

 積極的な指示を出す気はなかった。
 この戦力差なら結果は見えている。
 どうせ勝っても総司令官の手柄になるだけだ。
 アナスタシヤのために尽力してやる理由はどこにもない。

 自ら全軍の総指揮を執ろうともしないくせに、他人が功績を上げることには拒否反応を示す。卑怯にも程があるが、マルクは恥じ入ったりしない。
 能力的には大した特徴のない彼が今日まで生き延びることができたのは、常に自分の利を優先する性格のおかげだった。
 マルクはそのことを自覚しており、だからこそ、意識して利己的であろうとすらしていた。

 艦隊戦は、互いに横隊を組んで前方の敵と撃ち合う形となっていた。
 マルクは隣の味方艦に視線を移した。そこにはマルクと同年齢の艦長がいる。
 ロベルト・スハノフ子爵。年齢は同じでも、積み重ねてきた功績はマルクと段違いである。艦長としての能力もさることながら、家格や財産でもマルクの上に立つ。
 マルクは彼が嫌いだった。あいつは俺のことを見下している、と根拠もなく確信していた。

 ロベルトの指揮する艦は、正面に位置する敵と砲火を交えている。
 敵の砲撃が激しく、どうやら苦戦しているようだ。ロベルトが相手をしている艦は難敵らしい。
「運の無い奴だな。ざまあみろ」
 マルクは せせら笑った。
 ロベルトが敵に押されているのは、マルクの望むところだった。どうせなら奴の命が危うくなれば良い、とすら思う。
 そこを助けてやれば、調子に乗っているロベルトの鼻を明かせるだろう。

――――

 ロベルト・スハノフ子爵は必死に大声を上げていた。
「手を休めるな! 砲撃を緩めれば一気に食われるぞ!」
 こんなはずではなかった。目前の状況がロベルトには信じられなかった。

 カーライル艦隊 最左翼の艦と撃ち合いが始まった途端、次々に被弾して艦が損傷し、死傷者が続出していた。
 甲板上の兵で無傷の者は半分 居るかどうか。

 カーライル軍の中でも最左翼の艦は異様に士気が高かった。
 矢継ぎ早に魔術弾を放っている。
 それでいながらしっかりと統率されているようで、砲撃の精度も悪くない。並の艦よりむしろ正確なくらいだ。

 ロベルトは隣のマルク艦に目を向けた。
 奴に無様な姿は見せられない……。
 本来ロベルトは功名心に逸るタイプではないが、なにかと自分に張り合おうとしてくるマルクにだけは負けたくないと思っていた。
 最初は気にしていなかったというのに、いつの間にかマルクに影響されるようになっていた。
 別に悪い気はしない。特に嫌っているつもりもない。ただ、マルクに嘲笑われるのだけは我慢できなかった。

 自艦の被害は増えるばかりだった。魔術隊も半壊状態。これでは砲撃能力が半減する。
 敵艦はそれを見て取ったのか、速度を上げてこちらとの距離を縮めに掛かった。

「怯んでいる暇はないぞ! 撃ち続けろ! 敵の足を止めるんだ!」
 敵艦は、砲撃だけでなく操艦にも長けているらしく、巧みに艦を動かして接近してきた。
 白兵戦に持ち込むつもりなのだろう。
 そう見せ掛けてこちらの動揺を誘っている可能性もあるが、どちらにしろ危機的状況であることに変わりはない。

 ロベルトは悩んだ挙げ句に通信兵を呼んだ。
 こうなっては仕方がない。隣の艦に援護を求めるしかないだろう。気が進まないなどと言っていられる時期はとうに過ぎた。
 マルク艦も別の艦と砲撃戦を行っているが、向こうの敵は大したことがないようで、手間取っている様子はない。少しくらいなら力を貸してくれるはずだ。
 マルクとは仲が良いわけではないが、こちらが頭を下げれば見殺しにはすまい。

 とは言っても、必要以上にへりくだるのは避けたいところだ。
 相手がヘソを曲げない程度に傲岸な態度を取りたい。
 そうでもしなければ、今後マルクに頭が上がらなくなってしまう。

 様々な思惑を込めつつ具体的な文言を考えて通信兵に伝えるまでに、多少の間が出来た。

 支援要請を終えてロベルトは艦長席に腰を下ろした。
 敵艦を確認する。
 最後に見た時より倍ほども大きくなっているように見えた。
 錯覚かとロベルトは思ったが、すぐに間違いに気付いた。
 自分が救援要請をしている間に接近されたのだ。予想よりも遙かに早く。

 ロベルトは、座ったばかりの椅子から、弾かれるような勢いで腰を上げた。
「後退だ! 後退! 左後方に後退する! 急げ!」
 冗談じゃない、とロベルトは思った。
 これまでの動きを見るに、眼前の敵は精鋭艦だ。斬り込み隊にも猛者を揃えているに違いない。乗り込まれたら終わりだろう。
 とにかく逃げるしかない。

 敵艦はさらに足を速めた。こちらが逃走に移ったと見るや、砲撃を避けながら進むための蛇行機動から、直線機動に切り替えたのだ。
 極めて優れた操船術だった。
「なんと器用な」
 命の危うい状況でありながらロベルトは舌を巻いた。

 隣のマルク艦を見る。まだ救援に動こうとする様子はない。
 目の前の敵と撃ち合っている最中であるため、なかなか動けないでいるのだろう。

 相変わらず動きの遅い奴だ。ロベルトは舌打ちした。
 敵と味方の差をここまで見せ付けられると、悪足掻きをしようという気も失せてくる。
 海戦が始まる前から自分の命運は尽きていたのかもしれない。

 程なくして敵艦に接舷された。
 敵は、無理やりぶつかって艦を密着させるのではなく、絶妙な位置取りで横付けしてきた。
 体当たりどころか艦同士の接触すらなかった。なのに、艦と艦の間には、飛び越えられる程度の隙間しかない。
 見事としか言い様がなかった。

 カーライルの精鋭艦は即座に斬り込み隊を送り込んできた。
 10人そこそこの第一陣が跳躍して乗り込んでいる間に、他の兵が手際よく縄を掛けて、こちらの艦の動きを制限してくる。
 直後には第二陣が殺到してきた。

 ロベルトは迎撃の指示を出したが、白兵戦は、侵入を許した瞬間から敵の勢いに押され続けた。
 甲板の大半を早期に制圧されてしまう。

 次々と配下が倒れていく中、ロベルトは自らも剣を取って応戦した。
 無駄なことだと分かっているが、他にやることがない。
 艦を捨てて逃げ出すには遅すぎた。

 降伏は論外だった。誉れ高いベリチュコフの貴族として、家紋に泥を塗るような愚行は犯せない。
 仮に矜持を抜きに考えても、やはり結論は同じだ。
 散々 略奪してきたベリチュコフ軍の一員である自分が捕虜になれば、どのような扱いを受けるか。その点を少しでも考慮すれば降伏など有り得なかった。

 ロベルトは奮戦して2人を斬り捨てたものの、息が上がったところを狙われて、剣を弾き飛ばされた。
 武器を失い、周りに視線を走らせる。
 頼りにできそうな配下は居なかった。

 まだ剣を持って戦っている味方の兵は十数人といるが、この圧倒的な劣勢を跳ね返そうとするほどの気概に満ちた者など、もはやどこにも居ない。
 彼らは絶望に暮れながら闇雲に剣を振っているに過ぎなかった。
 今や甲板のほぼ全面を制圧されつつある。

 周りを敵兵に囲まれるとロベルトは観念し、前方の敵に目を据えた。

 顔を見ると、美しい女であることが分かった。
 全身から力が抜けていくような気がした。
 疲弊していたとはいえ、若い女に剣を弾かれるとは、自分も年を取ったものだ。
「名前を聞いておこうか」
 ロベルトの声に応えて女は剣を下ろした。

「デューク艦隊、二番艦、艦長ベアトリス・ハルです。この艦の艦長はあなたですね?」
「ああ、そうだ」
 聞いたことのある名前のように思えたが、今のロベルトにとってはどうでも良いことだった。
 自分を討ち取ろうとしている者の名を知っておきたかっただけで、別に何者であろうとも構わない。

 ロベルトはその場に膝を着いた。
 甲板上で剣を交えている者はもう居なかった。
「斬れ、ベアトリス」
「なにも死に急ぐことはないでしょう。降伏をお勧めします」
「虜囚となって生き恥を晒せと言うのか?」

「生きて再起を図ることが愚かな選択であるとは思いませんけれど」
「…………」
 ロベルトは答えなかった。

「仕方ありませんね。ここで果てるのが望みだと言うのなら、その通りにして差し上げましょう」
「感謝する」
 偽りのないの言葉だった。
 砲撃戦で遅れを取り、むざむざと接舷され、挙句に討ち取られようとしているからには、誇り高い戦死を演じることによって自分を慰める他はない。
 その意思を尊重してもらえるのは素直に有り難かった。

 ベアトリスは剣を掲げた。
 彼女が腕を振り下ろした瞬間、ロベルトは、女王陛下に捕えられていた戦姫の名を思い出した。

――――

「ロベルト艦から通信! 前面の敵に苦戦中、支援砲撃を求めるとのこと!」
「なに?」
 マルクは眉を寄せた。
 ロベルトとは何十回と戦場を共にしてきたが、助けを求められたのは初めてのことだ。そこまで手を焼いているというのだろうか。

 この事態をマルクは望んでいたのだが、まさか本当に実現するとは思っていなかった。
 実際にこうなってしまうと、困惑ばかりが先に立つ。

 マルクは考えた。
 助けるのは良いとして、なるべく貸しは大きくしたい。追い詰められれば追い詰められるほどロベルトは恩を感じるに違いない。
 奴は決して無能ではないから、少しくらい手助けが遅れても、簡単にやられることはないだろう。もう少し様子を見るべきか。
 ただ、動くのをあからさまに遅くすれば逆に恨まれかねないので、そこは気を付けねばならないが。

 算段をしつつロベルト艦の様子を窺ったマルクは、予想外の光景を目にした。
 いつの間にか敵艦と接舷していたのである。
 白兵戦を好まないロベルトが意図したことではないだろう。

「こうも簡単に斬り込まれるとは、油断したか」
 マルクは焦った。
 接舷されていては砲撃での支援はできない。
 こちらも艦を寄せて斬り込み隊を送ってやるしか助ける方法はないが、今は砲撃戦の最中だ。
 さすがにそこまではできない。

「通信兵。しばらく独力で持ち堪えるよう伝えろ。こちらの敵を何とかしない限り、軽率に動くことはできぬ」
「ですが、マルク艦長……」
 戸惑いを露わにする通信兵に対してマルクは怒りを覚えた。
 向こうの艦に知り合いでも居るのかもしれないが、この非常時に私情を持ち出すとは何事か。
「命令に不満があるのなら言ってみろ!」

「い、いえ、新たな通信が届きまして、その、ロベルト艦長 戦死とのことです」
「……馬鹿な」
 信じられない言葉だった。あまりにも早すぎる。
 認めたくはないがロベルトは優秀な艦長なのだ。彼があっさりと討ち取られることなど有り得るのだろうか。

「間違いではないのか? 一度 確認せよ」
「先ほどから何度も通信を送っていますが、応答がありません。おそらくは――」
「すでに艦を制圧されたということか……」
 マルクは絶句した。
 そして、気付いた。ロベルトを鮮やかに倒した恐るべき敵が、自分の艦のすぐ隣に居るという事実に。

「このままではまずい。あの艦とは距離を取るぞ。転進だ」
 動揺が声に表れていることをマルクは自覚したが、どうしようもなかった。
「マルク艦長。前方の敵と撃ち合っている最中に艦の向きを変えるのは危険です」
 参謀の言葉はマルクの思考を掻き乱した。
「た、確かにそうだ。敵は隣の艦だけではない。しかし、ならば、一体どうすれば良いのだ?」
 問いに答える者は居なかった。

 判断を迷っている間に、ロベルト艦を制圧した敵艦が再び動き出し、マルク艦に迫りながら砲撃を始めた。
 前方からだけでなく右方からも砲撃を受けてマルク艦は窮地に陥った。

 1隻対2隻の砲撃戦となれば勝ち目はない。
 ましてや敵には、ロベルト艦を単艦で破った精鋭艦も居る。

 危機的な状況に置かれていることをマルクは悟った。
 取るべき道はひとつしかない。
「に、逃げるぞ。逃げるしかない。我が艦は戦場を離脱する。全員、急げ!」
「お待ちください!」
 参謀が慌てて声を上げた。
「軽率に艦を動かすのは危険だと申し上げたはずです!」

「だからなんだ! お前は黙っていろ! 他に助かる道はないんだ! 多少の犠牲は構わん! 逃げろ! 逃げるんだ!」
「マルク艦長……」
 部下たちの顔に失望の色が浮かんだのをマルクは感じたが、気にしている余裕はなかった。
 口の端に唾の泡を作りながら叫び続ける。
「早く逃げ出せと言っている! 命令を無視する者はこの場で斬るぞ! 早くしろ!」

 艦の動きは鈍かった。
 マルクの恐慌が配下に伝染しているためである。
 艦長が冷静さを失えば、艦全体が機能不全に陥る。その典型だった。

「逃げろ! 早く逃げろ!」
 艦が被弾し続ける状況下でマルクは最期の瞬間まで喚き続けた。


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