水の星、世界を手に入れる男
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第一章 第二章 第三章
『水の星、世界を手に入れる男』
第14話 愛の告白

「ちょっと、エル!」
 飛び込むような勢いでラナが執務室に入ってくる。

「なんだよ。仕事ならちゃんとやってるぞ。奇襲戦の報告をデューから受けていたところだ。多少は話が逸れたりもしたけどな」
 エルバートの声が聞こえていないかのように、ラナは乱暴な足運びで机の前まで来た。

「どうしてオリヴィア様が女王の尋問をしているの?」
「……その話か」
「あんた、知ってたの? 知ってて放っておいたの? もしかして、あんたが命じたの?」
「尋問したいと言うから許可しただけだ」
「あれじゃただの拷問よ。扉越しでも悲鳴が聞こえるくらいなのよ?」

「オリヴィアのやつ、やっぱり無茶しやがったのか」
「分かったのなら、止めるべきでしょう」
「…………。敗軍の将をどう扱おうが俺の勝手だろ。その場で処刑したって良いくらいのところを、あえて生かしてやってるんだ。むしろ俺の慈悲深さに感謝して欲しいね」

「あんたは実際に悲鳴を聞いていないからそんなことが言えるのよ。事態がまるで分かっていないわ。そもそも、なんでオリヴィア様に任せたりしたのよ。彼女が功を焦って無茶をすることくらい、予想できるでしょう。拷問なんて人道的に許されることではないわ」
「うるせえな。別に積極的に痛め付ける気はないが、これはこれでありだろ。レイラの悪行を思えば当然の報いだ」

「拷問を許せば、あんたもそのレイラと同じ悪行をしたことになるわ」
「同じってことはないだろ。民衆を殺せと命令したことなんて俺はないぞ。虐殺の女王と一緒にされてはかなわん」
「そんなことを言っているんじゃないのよ」
「分かってる。…………。これ以上は自重するよう、後でオリヴィアに言っておく。それでいいだろ」

 エルバートはデュークに顔を向けた。
「さっきの報告の続きを頼む。どうせやらなきゃならんのなら、今日のうちに済ませてしまおう」
「けど……」
 デュークは気まずそうにエルバートとラナの顔を見ていた。

「誤魔化さないでよ!」
 ラナは声を荒げた。
「…………」
 エルバートが何も言わないでいると、ラナも黙り込んでしまった。
 デュークは困惑してふたりを見るばかりだった。

 執務室は静まり返った。外からも何も聞こえてこない。
 室内が全くの無音になったことをエルバートは意外に思った。
 無言でいると、こんなにも静かになるのか、この部屋。今まで気付かなかった……。

 エルバートは小さく溜息を吐いた。
「宮廷内のことはオリヴィアに任せてある。レイラは今この王宮に居るんだから、オリヴィアの担当だろ。俺が口を出すことじゃない」
 口調には刺が含まれている。

 ラナに怒りの感情を向けられたことに対して、エルバートは萎縮を感じていた。それを隠すためには、もう一つの感情を先に露出してしまう必要があった。
 叱責された際に誰もが感じるのは、萎縮か不満である。この場合のエルバートは両方を感じた。
 そのため、不満による苛立ちを表に出すことによって、萎縮している自分の弱さを覆い隠すことにしたのだった。

「詭弁よ。女王レイラの処遇は政治的に重要なことでしょ。宮廷行事の調整役に任せて良い話ではないはずだわ」
「…………」
 ラナの言い分が完全に正しかったので、エルバートは対処に困った。
 口から出てきたのは最悪の言葉だった。
「うるさい、黙ってろ。調整役ごときがしゃしゃり出るべきじゃないって言うのなら、お前はどうなんだ。ただの世話係が俺に口出しする権限なんてあるのか」

 ラナが反論する前に、デュークが割って入る。
「ま、まあまあ。とりあえず、女王レイラの尋問は一旦中止させて、時間を置こう。話し合うのは明日にした方が良いと思うよ、僕は。どうかな、エル」
「俺は別にいいけど」
「よしよし。ラナもとりあえずはそういうことで良いよね?」
「…………」
 ラナが無言で頷くと、デュークはさっそく配下を呼び、尋問の中止命令を伝えて、レイラが軟禁されている部屋まで走らせた。
 それを見届けるとラナは執務室を出て行った。

――――

「デュー」
「なに?」
「報告の続きを……」
 エルバートの声は震えていた。

「どうせ頭に入らないだろう。そんなことより、ラナを追い掛けた方が良いんじゃない?」
「追い掛けて、どうしろって言うんだよ」
「謝るとか」
「お前もラナの方が正しいと思うのか?」
「尋問の是非はともかく、詭弁を弄した上に暴言まで吐いたことは、やっぱり謝った方が良いと思うよ」
「…………」

「けど、驚いたな。エルとラナが喧嘩をしているところなんて、初めて見た。ふざけ半分の言い合いならいつものことだけど」
「俺も、あいつが本気で怒ったとこなんて初めて見た。今まで俺が何をしたって、あそこまで声を荒げたりはしなかったのに」
「職務上のことでもあるし、これまでのように馴れ合っているだけではいられないってことじゃない?」
「これだから真面目に仕事なんてしたくねえんだよ」

「嫌なことからずっと逃げていられるような身分ではないでしょ」
「…………。いつになくはっきり言うな、お前」
 ラナへの態度にデューも腹を立てているのだろうか。エルバートは不安になってデュークの顔を見たが、どうやらそうではないらしいことが分かり、胸を撫で下ろした。

 デュークは柔和な笑みを浮かべていた。
「僕はエルより年上だし、軍歴にも差がある。これくらいは言っても良いだろ?」
「軍歴か。お前、軍じゃだいぶ苦労しているんだろ。嫌になったりはしないのか?」
「もう慣れたよ、部下に舐められるのは。まあ、僕が悩むようなことなんて、自分のやり方次第でどうにでもなる程度のことだ。なんとかするよ」
「前向きになったな」

「最近になって分かったことなんだ。まだまだ上手くいかないことの方が多いけどさ。艦長職ですら僕には荷が重いというのに、司令官職まで務めるとなると、なかなかね」
「デューも、能力的には問題ないと思うんだけど、権力も地盤もまだ無いに等しいっていうのがな。役職だけ先行させられても、そりゃ上手くはいかないよな。お前の親父もそのへんのことをもう少し考えてくれれば良いんだが。まあ、ストレンジャー公爵家を正式に継げば、周りもお前のことを認めざるを得ないだろう」
「父上はまだまだ健在だから、当分それはないよ」
 言いながらデュークは立ち上がった。

「ちょっとラナと話をしてくる」
「……ああ」

――――

 部屋に残されたエルバートは椅子の背に身体を預けた。
 俺をなだめて次はラナか。あいつには頭が下がるな。にしても、ラナはデューに何を言うのか、気になる。今も本気で怒っているのか、俺と仲直りしたがっているのか……。

 エルバートは思う。
 デューの言うように、これは避けて通れないことなのだろう。1日のほとんどを一緒に過ごしているのだから、衝突することもある。本来なら当たり前のことだ。
 俺はラナに甘えすぎていたのかもしれない。

 身分の差を持ち出せばラナを黙らせることは容易いが、むろんエルバートは望まない。
 ならどうすればいいか。デューのおかげで明白だった。
 自分が間違っていたと思うのなら、撤回し、謝ればいい。単純な話だ。面倒ではあるが。
 エルバートは腰を上げた。

――――

 当てもなく廊下を歩いているうちにラナが見つかった。
 俺が来るのを待っていたのだろうか、とエルバートは思ったが、言葉にはしなかった。
 先にラナが口を開いた。

「一緒に来てくれるの?」
「……どこへ?」
「レイラ女王のところ」
「中止命令なら、さっき出ただろ」
「オリヴィア様のことだから、またいつ勝手に再開しないとも限らないわ。今日はさすがにないにしても、明日以降はどうなるか分からない。だから、中止命令を遵守するよう、オリヴィア様に言っておこうと思って」
「ああ、そういうことか」

 ラナの反応が予想よりも柔らかいものであったことにエルバートは安堵した。
 たぶんデューに慰められたからだろうな。俺と同じく。あいつには本当に頭が下がる。

 エルバートは真剣な顔をして言った。
「あのさ、ラナ」
「な、なに?」
「えーと……」
 言い淀んでしまう。やりにくかった。ラナに対して言葉を選ぶのは初めてのことだった。

 ふと、ラナの目がわずかに赤くなっていることに気付く。やっぱり泣いていたのか。
 ひどい罪悪感を覚えた。

「さっきは悪かったな。俺が間違っていた。お前が俺に何かを言うのに、権限なんてものは必要ない。馬鹿なことを言ってしまった」
 悩んだ末にエルバートが口にしたのは、結局のところ率直な思いだった。

「私の方こそ、ごめんね」
「え?」
「言い過ぎたかもしれない」
「あ、ああ、そんなことはない。悪いのは俺なんだし」
「そうとも言えないわ。冷静になって考えてみると、あんたの言っていたことも間違っているわけじゃないと思う」

「じゃあ、許してくれるのか?」
「許すも許さないもないのよ。怒っていた最中だって、別にあんたのことを嫌いになったわけではないのだから」
「なんだ、そうなのか。そうか。良かった。お前が俺から離れていったらどうしようかと思った」
「そんなこと、あるわけないじゃない。ずっと一緒に居るって言ったでしょう」
「だけどさ、隣に居ても気持ちが離れてしまうとか、そういうの、あるだろ」
「なんだか恋人同士の仲直りみたいね、これ」
「そうか? まあ、そうかもしれないけど」

 エルバートは少しだけ迷ってから言った。
「……なあ、ラナ」
「なに?」
「本当の恋人同士になるってのもいいんじゃないか?」
「誰と?」
「俺と」
「誰が?」
「お前が」

「…………。私が好きってこと?」
「いや、まあ」
「そこは答えてくれないと」
「お前を失うかもしれないと思った時は恐かった。これって好きだからじゃないか?」

「ずいぶんと遠回しな言い方なのね。私の方は前から何度も言っていたのに」
「え? 聞いたことないぞ?」
「いつも言っていたじゃないの。あんたが本気になれば、できないことは何もないって」
「それがなんだよ?」
「できないことがないってことは、私を恋人にすることも可能ってことよ」
「それこそ遠回しすぎるだろ……」
「かもね」

「…………」
「…………」
 沈黙。

「なんか、変な空気よね。初めて会った時のことを思い出すわ」
「確かに。今のお前、がちがちに緊張していたあの時と雰囲気が似ているな」
「あんたはあの時 全然緊張していなかったけれど、今はそうでもないみたいね」
「お互いの愛を確かめ合ったばかりなんだから、いつも通りというわけにはいかんだろ」

「愛とか言っちゃうんだ」
「何だよ」
「なんかあれよね」
「あれって何だよ」
「あれはあれよ」

「まあいいけど。んで、恋人同士になったってことは、何をすればいいんだ?」
「えっちなことをしたいの?」
「そういうことじゃなくて。いや、したくないというわけでもないんだけど」
「まったく、あんたはえっちなんだから」
「お前が言い出したんだろうが」
「だって、本当のことでしょう。いつも色んな女の人を寝室に連れ込んでるじゃない」
「お前の気を引きたかったからだよ」
「どういう意味?」
「あの子を抱くくらいなら私を抱いて!って言ってこないかなぁと思って」
「馬鹿じゃないの?」

「あと、他の女とやりまくってれば、気楽に誘えるだろ。軽い感じで、お前を」
「お前も混じるか、とかそういうの? あれって本気で言っていたわけ?」
「そうだけど」
「私が応じるわけないでしょ」
「冷静に考えるとそうかもしれん」
「普通に考えれば分かるでしょう」
「奇をてらいすぎたか……」

「当分の間、えっちなことは無しね。心の準備が必要だし。少しずつ段階を踏んでいくということで。ね?」
「ああ、分かった」

 でも、とエルバートは思った。
 胸を揉むくらいなら良いじゃないか。なにも、直に揉ませろと言うつもりはない。服の上からで構わない。恋人同士になったからには、そう無茶な要求でもないはずだ。

 ……よし、揉むか。
 エルバートは決意した。
 こういうことは、さりげなく頼んだ方が良いだろう。物のついでに言ってしまうのが理想だ。

 計算を巡らせてから慎重に切り出す。
「あのさ、ラナ」
「うん?」
「俺たちが恋人になったことは、お前の方からデューに言っておいてくれないか? なんか俺からは言い難くてさ」
「なんで? 別にいいけど」
「悪いな。あ、それとさ」
「なに?」
「胸を揉ませてくれないか?」
「…………」
 ラナは返事をしなかった。

 さりげなく言い過ぎて、聞き逃されてしまったのだろうか。そう思ったエルバートは、一言一句 間違うことのないよう、ゆっくりと同じ言葉を繰り返した。
「胸を、揉ませてくれないか?」
「…………」
 やはりラナは無言だった。

 仕方がない。エルバートは観念した。合意の上で揉むのは無理のようだ。
 こうなったら隙を突いて揉むしかないだろう。

「ラナ、地震だ!」
「え?」
 ラナは窓を見た。
「地震? 別に揺れてないと思うけど?」
「そんなことはない!」
 エルバートは、下から持ち上げるようにしてラナの両胸を掴んだ。そのまま手を上下に動かす。
「ほら、揺れてる! こんなに揺れてる!」
「ちょ、やめてよ!」
 ラナは後ろに飛び退いてエルバートを睨んだ。
「もうっ、馬鹿!」

「ひょっとして怒ったのか?」
「怒るでしょ、そりゃあ」
「悪かった。どうも舞い上がっていたようだ」
「まあ、あんたのやることにいちいち腹を立てたって仕方ないし、今回だけは忘れてあげる」
「それは良かった」
「次はないから」
「あ、はい」

「まったく、なんであんたはえっちなことしか頭にないのかしらね」
「俺からすれば、なんでそんなに抵抗があるのか不思議なんだけどな。俺に誘われた女はみんな簡単に股を開くぞ」
「あんたが王子だからでしょう」
「そうかもしれんが」
「私としては、そのへんが少し引っ掛かるのよね」
「……? どういうことだ?」

「あんたはたくさんの女性を抱いてきたわけでしょう?」
「うん……」
「あんたが私のことを特別な存在だと思ってくれているのは分かる。私もそうだから。幼い頃からずっと一緒だったし、その積み重ねは掛け替えのないものだと思う。でもそれは、はっきり言ってしまえば思い込みに過ぎないのよ」
「そんなことはないだろ」

「思い込みという言い方が悪いのなら、絆と言い換えても良いけれど、結局のところ、事実が変わるわけじゃないの。私は特別な女なんかじゃない。ただの女に過ぎない。私の身体は、あんたが抱いてきた女性たちと、何も違わない。胸の膨らみ具合とか、腰のくびれ具合とか、多少の違いはあっても、基本的には同じようなものでしかない。特別な存在であるはずの私の身体が、これまで抱いてきた女性と同じであることを、あんたは肌で実感することになる。それが少し恐い」
「俺にとってお前が特別な存在じゃなくなるってことか?」
「そこまでは言わない。でも、幻想が薄れることは多少あるんじゃないかなって」

「んなわけねえだろ? たとえば、美人の乳首と不美人の乳首では、有り難みが全く違う。見る時もそうだし、触る時もそうだ。弄くり回した後の満足感だって違う。乳首の感触が全く同じであってもな。お前の身体が特別なものではなかったとしても、俺がお前を特別だと思ってさえいれば、抱いた時の感覚だって特別なものになるんだよ」
「…………」
「特別な乳首だ」
「いや、そこを強調する必要はないと思う」

「今から証明して見せようか?」
「え?」
「じっとしてろ」
 エルバートはラナを抱き締めた。彼女の両脇に手を差し込み、背中まで回す。
 抵抗はなかった。
 ラナはわずかに顎を上げて、エルバートの瞳を見つめた。

「何をするつもり?」
「俺にはキスなんて日常茶飯事のことだ。それ以上のことだってな。だから、どれだけ女遊びをしていても、胸が高鳴ることなんてない。けど、お前とキスをすれば、きっと平常心ではいられなくなる」
「…………」
「目を瞑れ」
 ラナが言う通りにするのを待ってから、エルバートは彼女の唇を塞いだ。

 互いに口を閉じたまま唇を合わせるだけの、控え目なキスだった。
 しかしエルバートは、宣言通り、これまでにない感覚を味わっていた。身体に渦巻いているのは、単純な肉体的快楽ではなく、精神的な充足感だった。

 どちらからともなく唇が離れると、ラナは目を一度開けてからまた瞑り、エルバートの首に顔を寄せた。
「本当ね。エルの胸、ドキドキしてる」
「そうだろう? キスくらいでこんなにも胸が高鳴るのは、お前くらいのもんだ」
「密着してると、こんなにも伝わってくるのね」

「お前の心臓も暴れだしてるな。大丈夫なのかよ、これ」
「恥ずかしい……」
「男にこうやって抱き締められるのは初めてなんだから、そりゃ当然だろ」
「それだけじゃないのよ。よく考えたら、とんでもないことを喋ってしまったわけだし。内心の吐露にも程があるわ」
「どう考えても俺の方が恥ずかしいだろ」
「そう?」
「俺がどんだけ恥ずかしい言葉を口にしたか、分かってねえのかよ」

「ねえ、そろそろ離してくれない?」
「まだ良いだろ。もう少し。温もりを味わい合うってことで」
「だって、ここ、廊下なのよ。いつ誰が通り掛かるか分からないじゃないの」
「仕方ないな……」

 エルバートが手を離すと、ラナは数歩 後ろに下がった。特に乱れているわけではない衣服を整えながら言う。
「もう、勝手にキスなんてして。赤ちゃんが出来ちゃったらどうするのよ」
「ん?」

「平民の私が第二王子の赤ちゃんを産むのって、大変なことなのよ。そういうのは、色々と根回しとか必要でしょ。キスして子供を作るのはまだ早すぎるわ」
「え? いやいや……え?」
「なに?」
「えっと、お前さ、俺がいつも女を連れ込んでる時、何をしてたと思ってるんだ?」
「何って、キスをしてたんでしょう? その、裸で抱き合ったりしながら」
「…………」

「違うの?」
「ん、んー……。まあ、そんな感じかな」
 膨大な知識を有し、世話役の選抜試験を毎年 突破しているラナであっても、知らないことはあるのだった。

「けどな、他にもやることはあるんだぞ」
「どんなこと?」
「最初はちょっと痛いかもしれん」
「強く抱き締めるってこと?」
「違う」
「じゃあ、なによ」
「端的に言うと、パンパンするってことだ」
「意味が分からないんだけど」

「あれだ、少しずつ段階を踏んでいくということで。うん、そうしよう」
「そう? あんたのことだから、いきなり裸で抱き合おうとか言い出さないか、少し心配だったけど、この点については意見が一致したわけね?」
「慎重に扱わないと壊れてしまうガラス細工を手にしたような気分になってしまったんだ……」
「だから意味分かんないって」
「まあ、追々な」

「良いけど。とにかく、私はレイラ女王のところに行ってくるわ。これからの話はまた後でね」
「そうだな。行くか」

「あんたは来なくてもいいから」
「え?」
「私ひとりで行ってくる」
「な、なんでだよ」
「何を狼狽えているのよ」

「俺も行った方が良いだろ。俺が居ないとオリヴィアは聞く耳を持たないだろうし、衛兵が通してくれるかどうかも怪しいぞ」
「そうね。なら、デューに来てくれるよう頼むことにするわ。ストレンジャー公爵家の長男が居れば、オリヴィア様も無下にはできないでしょう」
「なんで俺と行くのを拒むんだよ」

「えっと、なんて言うか……」
「?」
「ほら、分かるでしょう?」
「分からん……」
「今はちょっと照れてしまうのよ。あんたと一緒に居ると」

 よく見ると確かにラナの顔は少し赤くなっていた。
 きっと俺もなんだろうな、とエルバートは思った。
「そ、そういうことだから、後でね、エル」
「あ、ああ」


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