水の星、世界を手に入れる男
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第一章 第二章 第三章
『水の星、世界を手に入れる男』
第13話 異世界見聞録

 城内を歩いている最中、どこからか甲高い声が聞こえてきて、ラナは足を止めた。
 悲鳴だったと思うが、聞き逃していてもおかしくないほど小さかった。だいぶ距離があるのだろう。

 その場で耳を澄ましてみるが、何も聞こえない。
 気のせいだったのかと思った矢先、また同じような声が聞こえた。
 女の人が叫んでいるようにも思える。
 ひょっとしたら風の音なのかもしれないが、確認する必要がある。

 ラナは音の元へ向かった。
 ほとんど勘で動いたようなものだが、歩みを進めるほどに、悲鳴らしき音が明瞭になってきた。
 見当をつけた方角はどうやら正解だったらしい。

 風の音でないことはすぐに分かった。
 近付くにつれて、喉を絞り上げているかのような絶叫が何度も耳に届くようになったのだ。
 相当に緊迫した状況のようだった。

 原因と思われる部屋の前に立つ。
 ここが、女王レイラを軟禁している部屋であることは知っている。
 だとしたら、悲鳴の主は……。

「何事です、これは」
 扉を守っているふたりの衛兵に聞いた。

「尋問中だ」
 衛兵のひとりが短く答える。
「尋問、ですか?」
「そう言っている」
「女王レイラの?」
「分かったら向こうへ行け。邪魔だ」

「ですが……」
 ラナは扉に目を移した。
 これでは拷問ではないか。
 今も扉の向こうから悲鳴が漏れ聞こえてくる。

 こんなことは許されるべきではない、とラナは思う。
 レイラは征服地の民を虐殺してきた。いざ自分が捕虜になった時には、何をされても文句は言えないかもしれない。
 けれど、そんなのはレイラ側の都合だ。カーライル王国には関係がない。

 今回ベリチュコフ軍の侵攻によってカーライル領は少なくない被害を受けたが、それすらも関係はない。
 罰を受ける義務が彼女にあるとしても、罰を与える権利がカーライル王国にあるわけではない。すべての復讐は私怨でしかない。
 それがラナの考えだった。
 ゆえに見過ごすことができない。

「他国の王に対する扱いとしては不適切でしょう。後で問題になるのではありませんか」
「我々の関知することではない」
「分かりました。尋問官と話をつけます。ここを通してください」
「お前は給仕係か何かなのだろう? 部屋の中に居るのはエアハート伯爵家の御令嬢だ」
「オリヴィア様が?」
「無闇に話し掛けて良いような相手ではない。出過ぎた真似をするな。さっさと自分の仕事に戻れ」

「私は――」
 給仕係ではなく第二王子の世話役です、と言おうとしたが、どちらにしても、伯爵令嬢とは身分に隔絶の差があった。
 仕方なくラナは言葉を変えた。
「出直してきます」

――――

 レイラ奇襲戦におけるカーライル側の損害は、決して小さなものではなかった。
 執務室で詳細な報告をデュークから受けているうちに、エルバートは知らず知らず眉間に皺を寄せていた。

 先頭だったデューク艦よりも、エルバート艦を含めた後続艦の方が、死傷者の割合が高かった。
 エルバートが指揮していた後続艦隊6隻は、レイラが指揮していた護衛艦隊に、一方的な砲撃を受けていた。窮地を自力で脱する術をついに見付けられず、エルバートはデュークに命運を託すしかなかった。
 被害の大きさはその結果である。

 軍神レイラの全面攻勢を受け止めきれなかったというのなら、まだ納得はできる。
 しかし、旗艦に斬り込まれたレイラは、艦隊戦の指揮を執ると同時に、甲板上の白兵戦も指揮していた。
 片手間だったレイラを相手に砲撃戦で遅れを取ったという事実は、エルバートに新鮮な感情を芽生えさせた。

「劣等感って、こういうのを言うんだな……」
「エルが弱気になってるのは珍しいね」
「別に弱気になってるわけじゃないが、数字を見ると改めて思っちまうよ。手酷くやられたもんだ」

「艦隊指揮は実質これが初めてだったんでしょ?」
「いや、出撃数だけなら、お前とそんなに変わらんはず」
「見てただけじゃ、意味はないんじゃないの」
「なくはない。指揮を執ったことだってちゃんとあるぞ。ごくたまにな」
「そんな体たらくで軍神レイラの猛攻を短時間でも凌げたのだから、物凄いことだと思うけどね、僕は」

「正直言って、もっとやれると思ってたんだよ」
「相手が軍神でも?」
「ああ」
「経験が浅くても?」
「ああ」
「……まあ、良い機会じゃない? 才能だけでは限界があることが分かった。なら、努力を重ねればいい」
「それは嫌だ」
「なんでだよ……」

「もうレイラは俺たちの手の中だし、あいつくらいの力を持った奴なんて、世界に何人も居ないだろ。レイラに張り合えるような力が今後 必要になるとは思えん。父上が帰ってきたら、俺が艦隊決戦に出張ることもないし」
「いつかレイラに対抗できるようになる自信はあるんでしょ?」
「どうかな。あいつは少し特別のような気がする」
「特別?」
「一度だけ、俺の戦術が先読みされたんだよ。次に動かそうと思っていた艦に砲火を集中されて、後手後手に回ることになった。なんだろうな、あれ。天位魔法とは違うだろうし。経験の差ってやつか?」
「さあ……」
「同じ戦場に立ってはいても、あいつには見えてる世界が違うのかもな」

「勘、とか?」
「ん?」
「ほら、エルがたまに言うじゃない。根拠は勘だ、って」
「あるにはあるけど」
「勘がどうとかエルが言い出した時って、大体その通りになるよね」
「そうあることじゃないけどな。戦術には組み込めない程度の頻度だ」

「いや普通の人は皆無だから、そんなの」
「もしこの話が正しいなら、ほとんど反則だな。ただでさえレイラの指揮能力はぶっ飛んでるのに、その上、訳の分からん直感まで駆使してるなんてさ」
「直感か……」
「まあ、レイラとまともにやり合うには、少なくとも経験の差を縮めないと、どうにもならんだろうよ」
「エルにそこまで言わせるんだから、女王レイラはやっぱりとんでもない化け物だったんだね」

「そもそもレイラの天位魔法がなぁ……。『不死艦隊』だっけ? あれは強すぎる。一部では『無敵艦隊』とか言われているらしいが、そっちの方が合ってんじゃね? 無敵だよ、無敵。どの天位魔法も大概そんな感じだけどさ、戦争との相性はあれが一番じゃねえかな」

「レイラが戦死しなかったのは幸いだったかもね。天位魔法の所有者が死ねば、数年後には自動的に血縁者に受け継がれるわけだから」
「天位魔法が神格化される最大の理由はそこにあるような気がするな。死ねば勝手に継承が進むとかさ、そんなこと聞いたら、普通、神が手を下しているとしか思えんだろ」
「元の所有者が何年も前から後継者を心に定めていれば、即座に継承が行われるっていうのが、より神秘的だよね。確かに、神の介在があるような気がしてくる」

「後継者ねえ。レイラって、そういうの あんまり考えてなさそうじゃね?」
「そうだとしても、継承が遅れるのは数年のことでしょ? 血縁者が根絶やしにでもならない限り、結局は誰かに継承されるわけで、やっぱりまずいんじゃない?」
「軍神レイラさえ死んでりゃ、どうにでもなるさ。数年後なら、カーライル軍の主力艦隊もとっくに帰ってきてるだろうし。それにその場合、俺が戦うことはないから、俺には関係ないね」

「今回のことでエルは艦隊戦に興味を持ったんじゃないかって思ってたんだけど、そうでもないの?」
「興味はなくもない。けどそれは元からだし、積極的に関わりたいって程ではないな。面倒臭さの方が先に立つ」
「しょうがないな、君は」
 デュークの声には落胆が滲んでいた。

 エルバートは気付かない振りをする。
「しかし、あれだな。天位魔法は世代を経るごとに効果が薄れてきていると言うが、まだまだ強力だよな」
「歴史書を紐解くと、確実に弱体化していることが分かるよ。とある昔の王は、大きな島そのものを跡形もなく吹き飛ばしたらしい。数十隻の艦隊を一瞬で半壊させる王は今でも居るけれど、陸地を削るとなると、かなり小規模な範囲に限られるだろうね」

「千年後には全く使えなくなったりするんかな」
「そうかも。外の血が入れば入るほど『魔法使い』としての特性が失われていくのに、近親で子を作ると、なぜか天位魔法を受け継ぐことすらできなくなるからね。現状では、どうしようもないよ」
「まあ、多少 弱まったくらいなら、まだ戦いようはある。魔力が弱いなら弱いで、利点は存在するわけだし。短所は武器に成り得る。なんでもそうだけど」

「王家の地位は揺らいでいくんじゃないかな。いつの時代も、天位魔法を満足に扱えない継承者はたまに出現するけれど、次の代ではちゃんと行使できている。だから、一代くらいで『魔法使い』の権威が地に墜ちることはない。でも、これが永続的な問題となったら話は違ってくるはず」
「天位魔法が衰えていく一方で、魔術は発達を続けているからな。どう考えても これまで通りとは行かないだろうよ」

「世界征服が可能な唯一の時代が今なのかもね」
「なんだよ、世界征服って」
「前にエルが良く言ってたでしょ。世界を手に入れてみせるって」
「子供の放言だろ。ラナみたいにいつまでも引っ張るな」
「時代には恵まれているよ。魔術の知識が広まることで、艦隊の侵攻速度と限界距離は飛躍的に伸び、実質的に世界は縮まった。そして、弱体化しているとはいえ、天位魔法は未だ健在。世界を征服するのに今ほどの好機は、もう後にも先にもないと思う」
「世界征服はともかく、そのうち、どこかの誰かが急速に勢力を拡大して、大帝国を築いたりするんだろうな。俺たちが邪魔をしなければ、レイラがその筆頭候補だったんだろうが」
「ベリチュコフ王国にしたところで、魔術がなければ、あちこちに侵略することはできなかっただろうね。『異世界見聞録』の存在によって歴史が加速しているような気がするよ」

 異世界見聞録。膨大な情報が記された書物。
 出自不明のまま、いつの間にか世界に広まった。
 これにより人類は初めて魔法陣の存在を知り、魔術の行使を可能とした。
 政治・経済・軍事など社会制度に関する記述も多く、世界各国に大変革をもたらした。

 エルバートは言った。
「異世界見聞録か。執筆者は天位魔法で異世界を知覚して書いたって話だけど、これ、ちょっと疑問なんだよな」
「疑問って?」
「本来なら存在しないはずの知識があの本に詰め込まれているのは確かだよ。けど別に、異世界を『見聞』しなけりゃ書けないってこともないだろ? たとえば、ほら、異世界ではなくて、未来を『見聞』して書いたっていうのはどうだ? それなら、同じような内容を執筆できるんじゃねぇの?」

「執筆者の天位魔法は、異世界の認識ではなく、未来視だったってこと?」
「あるいは過去視の線だって有り得る」
「え?」
「かつて存在していたという超古代文明を知覚できるのなら、現代にはない知識を得ることもできるだろ? 今よりも高度な文明だったんだからさ」
「あ、うん……」
 デュークは曖昧な笑みを浮かべた。

「そういえば、デューは超古代文明の存在を信じてないんだったか」
「僕だけじゃなくて、ほとんどの人はそうだよ」
「何言ってる。極一部の学者は実在を主張してるんだぞ」
「極一部という時点で、もう無理があるんじゃないかな」
「異世界よりもよっぽど現実的じゃね?」

「仮に、エルの言う通り未来視か過去視なんだとしたら、どうして執筆者は天位魔法の性質を偽ったの?」
「知らん。そういう可能性もあるんじゃねえかって言いたいだけだ。ただの戯れ言だよ。どっちにしろ、異世界見聞録の解釈が変わるわけじゃねえし」
「面白い発想ではあるよね」

「自分で言っておいてなんだが、異世界にしろ未来にしろ過去にしろ、それを視ることができるなんて、ぶっ飛び過ぎている気がしないか?」
「どういうこと?」
「レイラは精神を操作する。ティナは天候を操作する。どっちも、天位魔法以外には成し得ない奇跡だ。けど、あくまで、この世界の範囲内のことでしかない。艦隊を丸ごと吹き飛ばす大火力魔法にしても同じことだ。それに比べて、時空干渉はどうだ? 知覚するだけとはいえ、現象としては桁違いじゃないか」

「天位魔法で別の世界を視ることはできないってこと? じゃあ、異世界見聞録はどうやって書かれたと思うの?」
「そもそも天位魔法は関係ないのかもしれん」
「え?」
「超古代文明の遺物を発掘して、そこから知識を得たとか」
「あ、うん……」
「その反応はやめろ」

「なんか、やたらと否定したがるね。エルって、異世界見聞録のこと、嫌いだったっけ? 保守派の中にはそういう人も居るみたいだけど」
「別に嫌いってわけじゃない。あれが世間に公表されたおかげで、人類は魔法陣の仕組みを理解し、豊かな生活を送れるようになったわけだからな。大半が意味不明な文章で埋まってるっていう点も含めて、興味は尽きない。ただ、執筆者については、思うところがなくはない」
「執筆者?」

「そう。執筆者は、自称『魔法使い』ってこと以外、名前も国籍も不明ということだけど、何を考えていたのかもさっぱり分からん。一体なんで異世界見聞録を公表なんてしたんだ? あれだけの知識を独占していれば、世界を手に入れることも可能だったろうに」
「人類の発展に貢献したい、とかなんとか異世界見聞録に書いてあったような気がする」
「それは俺も読んだし覚えてるけど、あんなのは建前だろ? あれが本音だとしたら、頭がおかしいとしか思えん」
「それは言い過ぎじゃないかな」

「力があるのなら相応の野心を持つのが普通なんじゃないかって言いたいんだよ、俺は」
「それをエルが言っちゃうのかって感じなんだけど……」
「なんで?」
「いや、別に」

 それより、とデュークは続ける。
「僕が思うに、やっぱり執筆者にも野心はあったんじゃないかな。あれで世界は引っくり返ったわけでしょ? つまり、執筆者は自分の存在を歴史に刻み込んだことになる」
「名前も残らなかったのに、意味はあるのか?」
「それはわざとだろう? 名前を残したかったのなら、異世界見聞録に書いておけばいいだけなんだから。本人的には、後の世にどれだけの影響を与えられるかが大事だったんじゃないかな」
「……そういう考えもあるか」
「まあ、ぜんぶ僕の想像なんだけどね」

「説得力はあるんじゃね? 実際、100年後だろうが200年後だろうが、異世界見聞録は影響力を保ち続けるだろ。魔術に関してだけでなく、様々な分野にも触れているからな。カーライルの軍制もあれから流用してるし、国の政策もかなりの影響を受けている。個々人の意識にも大きな変化を促しているだろうし」

「最近増えてきた共産主義者は典型と言えるかもね。異世界見聞録を聖典のように扱っていると言うし。聖典扱いに関しては、共産主義者に限った話でもないらしいけれど」
「異世界見聞録さえなければ、共産主義が世間に浸透するのは、何百年も先のことだったろうよ。まったく迷惑なことだ」
「そこまで気にするほどのこと? まあ、彼らの主張通りにされたら、確かに僕たち王侯貴族は困るけれど、共産主義なんて、まだ民衆の極一部が信奉しているに過ぎないじゃない?」
「お前の言う通りだよ。でも、どうにも危険な臭いがするんだよな、あれ。そもそも、共産主義思想が根付く前に、本来ならもっと段階を踏まなければいけなかったはずなんだ。そこをすっ飛ばしているもんだから、色々と歪みが出てくるかもしれない」

「それは他のことにも言えるよね。魔術とかさ」
「ああ。発達が早すぎる。そのうち、技術競争に付いていけなくなる国も出てくるだろうな」
「うちは大丈夫だよ」
 デュークは断言した。
「そうなのか?」
「カーライル王国は魔術の開発に国力を注ぎ込んでいる。他国に類を見ないほどね。君がどう考えているかは知らないけど、国王陛下のご見識は素晴らしいものがある」
「へえ……」

「僕の父上はよく愚痴を言っているよ。魔術開発に回す予算があるなら艦隊整備に使うべきだ、って」
「ストレンジャー公爵か。軍の重鎮である彼の立場からすれば、無理はないんじゃね?」
「まあ、確かに。魔術の開発には、大量の魔石と大勢の魔術士が必要だからね。お金はいくらあっても足りない。傾倒すれば、艦隊編成に支障が出る。でも、技術開発にはそれだけの価値があるはず。長期的に見れば、だけど」

「長期的って、どれくらいだ?」
「数十年」
「長すぎるだろ……」
「つまり国王陛下は、次の王のために布石を打っているんだ。普通は、自分の代のことが最優先なのに」
「父上がねぇ。俺からすれば、単なる戦争馬鹿って印象しかないけどな」

 デュークは改まって言った。
「エル、こういう話を聞いたことがある?」
「ん?」
「かの大帝国の開祖であるアレクサンダー皇帝は、若くして父の跡を継ぎ、他国を次々に征服していった。それを可能たらしめたのは、彼のカリスマや軍才によるところも大きいが、なによりもまず第一に上げるべき要因は、父の代で国家の改革が行われ、それが成功を収めていたことである。そういう話」
「初耳だけど、頷ける話だな」

「アレクサンダー皇帝の他にも、一代で勢力を大きく広げた王は歴史上に何人か居るけれど、彼らの父親は、例外なく政治的功績を残している。後の世の僕たちは英雄の活躍に目が行きがちだけど、短期間での飛躍には必ずその土台があるんだ」
「必ず?」
「必ずだよ」

「デューの言う通りなら、カーライル王国は次の代で大きくなるってことか?」
「それは分からない」
「なんだよ……」
「次の国王次第じゃないかな、そういうのは」
「兄上次第ってことか」
「……まあ」
「レイラを捕らえたとはいえ、ベリチュコフ王国の大艦隊は未だ健在だから、向こうの出方にもよるしなぁ」

「魔術で我が国がベリチュコフ王国を圧倒できる時代が来ると良いんだけどね」
「いくら技術開発に力を入れていると言っても、そこまでの効果を望めるかどうかは微妙なとこだよな。戦争の形が丸きり変わるようなことがあれば、面白いことになるかもしれんが。そういう意味じゃ、いつだったかお前が言っていた理論は夢がある」
「え? なんだっけ?」

「おいおい。航空兵力が勝敗を決める時代が来るってやつだよ」
「ああ、あれね。いや、理論ってほど大袈裟なもんじゃないよ。それに、確信しているわけじゃない。多分そうなるんじゃないかなって程度の認識だし」

「面白い発想だよな。飛竜の戦術的価値はどこの国でも注目されてるけど、あくまでも、艦隊決戦の補助的役割を期待されているに過ぎない」
「エルもそう考えてるの?」
「正直に言うと、そうだ。いくら飛竜を自由に操れるようになっても、軍艦からの砲撃を食らえば、一発で撃ち落とされてしまうからな」

「でも、飛竜を大量投入すれば、すべてが撃ち落とされることはないじゃない?」
「相手の軍艦だって、別に1隻限定ってわけじゃねえだろ」
「そうだけど……」

「俺は別に反対してないぞ。研究を進めて実戦で試す価値は充分にあると思う。ただ、通用しない可能性だってあるだろうとも思う。ま、俺が王なら試してみるだろうがな。軍内から人材を募るくらいのことはしても良い」

「父上に提案したことがあるけど、止められたよ。『個人レベルの研究なら良いが、そこまではさせられない』とかなんとか言われた」
「ストレンジャー公爵の反応としては、そんなとこだろうな。デューも何十年かしたら、ストレンジャー公爵と呼ばれるようになるんだ。そん時に好きなことをしたらいいんじゃね?」
「その頃にはもう航空戦の時代になっているだろうね。どこか別の国が主導する形で。僕の考えが正しかったらの話だけど」
「仕方ない。革新的なことをする国ってのは、そういうことを思い付いた奴が、そういうことを実行できる地位に、たまたま居たんだろう。巡り合わせってやつ?」

 ふたりは口を閉じて、将来の戦争形態に想いを馳せた。
 静寂を破ったのは、扉の開く音だった。


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