水の星、世界を手に入れる男
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第一章 第二章 第三章
『水の星、世界を手に入れる男』
第09話 公爵令嬢マーガレット

「兄様、エル兄様」
「ん……」
 肩を揺すられてエルバートは目を覚ました。

「おはよう、エル兄様」
 公爵令嬢マーガレットが、幼い顔に笑みを浮かべていた。
「なんだ、天使の声がしたかと思ったら、マーガレットだったか」
「え? あ、がっかりさせちゃった?」
「いや、天使よりマーガレットに起こしてもらった方が嬉しいよ」
「ほんとう?」
「ああ」
 身体を起こしたエルバートは、マーガレットの頭を撫でてやった。

「エル兄様」
「ん?」
「今日は髪だけ? 胸は触ってくれないの?」
「なんか用事があって来たんだろ? 寝ている俺を起こすくらいだから」
「あ、うん。ラナ姉様がエル兄様を呼びに行こうとしてたから、私、代わりに呼びに行くって言ったの。ちょうどエル兄様に会いたかったから」

「そんなに胸を揉んで欲しかったのか?」
「だって、揉んでもらうと大きくなるって、前にエル兄様が」
「その辺のおっさんに揉んでもらっても効果はあるぞ」
「エル兄様じゃないと、嫌……」

「別に大きくしなくても良いと思うけどな。というか、マーガレットはまだ幼いんだから、放っておいてもそのうち大きくなるだろ。急ぐことはない。実りの季節を待つ楽しみというものもある」
 言いながらベッドから下りて、軽く伸びをする。

「エル兄様は大きい方が好きなんでしょう?」
「どっちかと言えば、程度だよ。前にも言ったろう。そこに大した違いなんてない」
「でも、私、エル兄様の好みに少しでも近付きたいから」
「まあ、マーガレットがそこまで言うなら、いつでも揉んでやるよ」
「いつも私の胸を揉んでくれてありがとう」
「いやいや、気にするな」

「お礼は他にもあるの」
「ん?」
「エル兄様、私に言った通り、不安の種を摘んできてくれたから」
「ああ、そういうことか。あれな。ま、当然だ。俺に任せとけって言ったろ?」
「うん、ありがとう」

「つっても、結構危なかったんだけどな」
「そんなに大変だったの?」
「もう少しで死ぬところだった」
「え?」
「終わったことだ。俺はこうして生きて帰ってきた。何の問題もないさ」
「ごめんなさい。私、何もできなくて」
「マーガレットはまだ子供だからな。子供は、良い子で留守番をしているのが仕事だ。苦労は大人にさせておけ」

「すごく頑張ったエル兄様にまたお願いをするのは心苦しいのだけれど……」
「なんだ?」
「今から私の胸を揉んでくれる?」
「さっそくだな。いいけど、自分で揉んだりはしてるんだろ?」
「うん、毎日。でも、やっぱり男の人に揉んでもらった方が効果があるって、母様が言ってたから」
「母様?」
「あ、やっぱり言わない方が良かった? 自分で揉んでいるところを見られちゃって、事情を説明しただけなんだけれど」
「ま、まあ、そんだけなら、なんとか。俺の名前は出さなかったよな?」
「揉むと大きくなるって教えてくれたのはエル兄様って」
「言ったのか」
「教えてもらったということだけ。たまに揉んでもらっていることは言ってないよ」

「…………。母様以外には言ってないよな?」
「うん」
「そっか。まあ、最悪の事態だけは免れたと言えるか」
 最悪の事態とは、マーガレットの祖父に知られることだった。

 シェフィールド公爵家の当主は、エルバートを軽蔑しきっていた。
 それだけなら王侯貴族でも珍しいことではないが、あからさまに侮蔑の目を向けてくる者となると、極端に限られてくる。
 シェフィールド公爵は、第二王子への非礼が許される数少ない貴族だった。

 形式上は、王子を含めた王族には服従しなければならない立場だが、実際に握っている権力も考慮に入れると、シェフィールド公爵の上に立っているのは、国王のみである。
 同格の者にしたところで、デュークの属するストレンジャー公爵家の当主など、一握りしか存在しない。

 軍に強い影響力を持つストレンジャー公爵家と違い、シェフィールド公爵家は、主に宮廷で力を発揮していた。
 外交のすべてはシェフィールド公爵家を通して行われる、とすら言われるほどである。

 今まで公務を放棄して好き勝手やっているのだから、俺が見下されるのは仕方ない、とエルバートは思う。
 ただ、マーガレットとはこれからも仲良くしていきたいので、彼女の祖父に嫌われているのは少し気になる。
 これ以上の関係悪化はなるべく避けたいところだ。

「やっぱり、言わない方が良かったよね……」
「別にいいさ。あ、でも、一応聞いておきたいんだけど、母様はどんな反応をしてた?」
「笑ってた」
「ふぅむ」

 マーガレットの母は、国王の妹であり、エルバートからすれば叔母に当たる。
 社交界にはあまり姿を現さず、エルバートも何度か顔を合わせた程度の付き合いしかないが、病弱の割りには朗らかな人だという印象が残っていた。
 どうやら、その見立ては正しかったらしい。
 ……もっとも、娘の胸が揉まれていることには気付いていないだろうから、それを知った時にどう反応するかは分からないが。

「言ってしまったものは仕方ない。ただし、これ以上は言うなよ? 他の人にもな」
「うん」
「マーガレットは素直だなあ。ご褒美に胸を揉んでやろう」
「わぁい」

「さあ、いつものおねだりをするんだ」
「うんっ。エル兄様、マーガレットの胸を揉んでください」
「おいおい、違うだろ。おねだりの仕方はそんなんじゃなかったろ? 一ヶ月ぶりくらいだから忘れちまったのか?」
「あ、そうだった。ごめんなさい。思い出した」
「頼むよ。ちゃんとしなきゃならん時は、ちゃんとしよう。今がそうだ」
「うん」

「そんじゃ、もう一回最初からな」
「エル兄様、マーガレットのおっぱいを揉んでください」
「違う。全然違う。胸をおっぱいと言い直したのはいいけど、揉んでください、じゃねえだろ。いっぱい揉んでください、だろ?」
「あ、そうだね。うん、そうだった」
「大丈夫なのかよ」
「今度は大丈夫」
「こっちは真剣にやってるんだから、あんまりふざけないでくれ」
「ごめんなさい……」

「いや、まあ、誰にだって失敗はあるよな。最後に締めればいいんだ」
「じゃあ、やり直すね?」
「ああ。ここからは一発で決めよう」
「うん、そうだね」
「よし、最初からだ」

「エル兄様、マーガレットのおっぱいをいっぱい揉んでください」


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